悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。


 全くもって、意味が分からない。

 ルーカスは私に八年も会っていないのに、私をずっと想っていたのだろうか。だが、私が学院でルーカスと生活を共にしていた頃でさえ、ルーカスが私に気があるような素ぶりは何もなかった。ただ、普通の級友として、しかも、結構苦手な分類に入る級友として接していただけだ。

 お兄様は、ルーカスに毒されているのだろうか。しまいには真顔で、こんなことを言い始めてしまった。

「トラスター公爵家の子息と結婚出来るなんて、大チャンスじゃないか。

 セシリアがルーカス様と結婚すれば、昔のように何も不自由のない生活が送れるんだよ?」

 お兄様は、昔の豪華な暮らしに未練でもあるのだろうか。私は、今の暮らしも苦ではない。

「ルーカス様だって気が荒いのは確かだけど、根はいい人なんだよ? 」

 何、その取ってつけたような言い方。そもそも、求婚相手の兄と殴り合いの喧嘩をする人なんて、私はごめんだ。

「それに、ルーカス様はかっこいいし、令嬢たちからも人気がある」

「それならなおさら、その令嬢と結婚すればいいじゃないの」

 私はお兄様に言い返していた。

 ルーカスの話を聞いていると、本当に無謀な結婚だと思い知る。万が一結婚なんてすると、ルーカスを好きな令嬢から集中砲火を浴びるかもしれない。

 それよりも、私には結婚に対する憧れがある。せっかく結婚をするのなら、好きな人と結婚をしたい。愛されていることを感じながら、幸せな結婚生活を送りたい。

「彼……きっと、今も変わっていないんだろうなあ。
 令嬢や使用人たちを泣かせているんだろうなあ。

 私の中のルーカスの記憶といったら、女子生徒に虫を投げつけたり、男子生徒と殴り合いの喧嘩をしたり、一人で教室を抜け出して木の上でお菓子を食べていたり……」

 そんなことを思い出すと、ますますルーカスは結婚相手としてあり得ないと思ってしまう。公爵令息とは思えないほどの野生児だ。


< 11 / 267 >

この作品をシェア

pagetop