悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「お前も犬が好きなんだな」
ルーカスは腕を組んだまま、信じられないといった顔で私を見る。どうやら、ルーカスは本当に犬が嫌いであるようだ。こんなにも犬に対して愛情がないのに、犬を飼いたいだなんてどうかしている。
……まあ、ルーカスが愛情を持てないなら、私が大切に育てるが。私のいる間だけは。
だが、ルーカスは冷めた目で犬を見ながらも、私に向かってキャンキャン鳴いているその犬を指差して告げたのだ。
「このクソ犬にする」
「……え!? 」
「このクソ犬を飼う。飼育道具は一式、トラスター家に届けてくれ」
「承知しました」
店長は深々と頭を下げたが……
いいの!? 他の犬も見なくていいの!? と私は驚くばかりだ。そんな私に、ルーカスは涼しい顔で言う。
「お前に懐くというのなら、いい犬なんだろう? 」
は? 訳が分からない。
どっちにしろ、私が犬の世話をすることになるのだろう。そして、ルーカスがいらないと言ったら、退職する時には連れて帰ろうと決心した。ルーカスと部屋に二人きりだと息が詰まりそうになるから、犬がいてくれると空気もいくらか和やかになるだろう。