悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「ルーカス様。……抱っこしてあげたらいかがでしょうか? 」
その瞬間、
「は!? 」
ルーカスは思いっきり嫌そうに私を睨む。
抱っこすることに拒否反応を示すのか。だが、抱っこすら嫌なのに犬を飼うだなんて、無茶にもほどがある。やはり、ルーカスが犬を飼うことは不可能なのだ。この犬のためにも、犬を飼うことを諦めてもらったほうがいいのか……
「ルーカス様……やはり、犬を飼うことは……」
やめますか?そう聞こうと思った時だった。
「……貸せ」
ルーカスはぶっきらぼうに言い、顔を背けたまま、私に向かって手を差し出している。だが、その差し出された手が微かに震えているのだ。
もしかして、怖いのだろうか。このおとなしい小型犬が、震えるくらい怖いのだろうか。