悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「きっと、ルーカスと結婚した人は苦労するわ。
ご飯がまずいなんて怒鳴られるだろうし、虫とか飼育しそうだし、浮気するだろうし……」
「セシリア。相手が公爵家ともなると、妻は料理を作らないと思うよ」
お兄様は苦笑いをして私に告げる。だが、残り二つを否定しないところを見ると、私の予想は間違っていないのかもしれない。
お兄様はしばらく考えるそぶりをした。その間にも雷は鳴り続け、大粒の雨が窓を叩く。そして三回目の雷が鳴った時……とうとうお兄様は口を開いたのだ。
「トラスター公爵家では、今、使用人を募集している。何しろ、ルーカス様が無茶を言ってみんな辞めていくようだ。
セシリアは、ルーカス様の現在の様子が知りたいんだろ? 」
知りたい。
だが、今のお兄様の話を聞いただけでもよく分かった。やはりルーカスは、暴れん坊のままで、私の手なんかに負えないだろう。なぜか私に求婚しているのは、嫌な令嬢から逃げるための囮か何かに違いない。
それなのに、お兄様は私に思わぬことを告げた。
「トラスター公爵家の使用人に応募してはどうだ? 」
「えっ!? でも、私が使用人になってしまったら、ますますルーカスに利用されるよね? 」
だけど、ルーカスのはちゃめちゃぶりを知りたい部分もある。
どうして私なんかに求婚したのだろう。何が目的なのだろう。私が使用人になれば、ルーカスに令嬢を仕向けて、ルーカスの目を私以外に逸らすことだって出来るかもしれない。
そんなことを考える私に、お兄様はドヤ顔で告げた。
「セシリアと分からないようにして、館に潜入したみては?
……そうだな。例えば、男性のふりをしたりして」
その言葉に、
「そうね!! 」
すっかり私は乗り気になっていた。
私が男装して、ルーカスに他の令嬢を仕向ければ、私への求婚は回避されるかもしれない。そして私は、本当に好きな人を見つけて結婚するのだと心に誓った。