悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

 その言葉は嬉しいし、ルーカスの気持ちも本当だと思う。だが、やっぱり私のために無茶をするのはやめてほしいと切に思う。

 ルーカスは犬を抱いて死んだような顔をしながら、少し震える声で告げた。

「こ、このクソ犬の名前はマッシュにしよう」

「……え!? 」

「俺はキノコ嫌いを克服する。同じく、犬嫌いを克服するのだから」

 だからといって、嫌いなキノコの名前を付けられるだなんて、この犬には迷惑だろう。もっと別の名前はないのだろうか。

 そもそも、ルーカスは冗談を言っているのかもしれない。悪ふざけの延長で犬を飼い、マッシュと名付けているだけかもしれない。

 私は必死に考えるが、ルーカスは犬を抱いたまま歩き始めてしまう。緊張しているせいか、酷くカチンコチンな歩き方で。


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