悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
マッシュは、ルーカスを同類とでも思っているのだろうか。ルーカスの前ではいたずらっ子なのに、私の前では幾分大人しくなる。そして、甘えるように膝に乗って頬をすり寄せてくるのだ。
そんなマッシュが可愛くて、思わず抱きしめてしまう私。そしてブラッシングをしてあげると、気持ちよさそうに目を細める。
「クソチビは、犬が好きなんだな」
「はい。マッシュを見ていると、実家の犬を思い出しまして」
マロンも昔はマッシュみたいな子犬だったなぁと懐かしくも思う。だが、今やマロンは立派な成犬だ。もう数年すると、老犬になってしまうだろう。
「犬は人間よりも寿命が短いです。
私の実家の犬とも、マッシュとも、いつかはお別れの時が来ます。
その時まで、幸せだったなと彼らが思えるような一生を送らせてやりたいのです」
「そうか……」
ルーカスは静かに私に歩み寄り、私の持っているブラシを取り上げた。そして、そっとマッシュの毛をブラッシングする。
不意にルーカスとの距離が近くなり、ふわっといい香りもして、私は頭が真っ白になりそうだ。今すぐにルーカスの側から離れたいと思うのに、膝の上にマッシュがいるため、身動きも取れない。