悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「お前は優しいんだな」
ルーカスは低い声で静かに告げる。その声が、胸を甘く震わせる。
「俺がお前みたいな男だったら、マッシュも懐いてくれただろう。
……セシリアだって惚れてくれただろう」
そんなこと、甘くて切ない声で言わないで欲しい。セリオはセシリアなのだから、私が惚れるはずがない。それに……こうやって、ルーカスの意外な一面を見るたびに、胸が熱くなる。好きなはずがないのに、胸がじーんと甘く震える。
「わっ、私は!ルーカス様のいいところもいっぱい知っていますよ!
せっ、セシリア嬢も、ルーカス様にそんなにも好きになってもらえて、嬉しいでしょう」
我ながら、なんて出まかせを言っているのだろう。
私はルーカスと結婚するつもりはないし、ルーカスだって他の令嬢を見つけることを願っている。それなのに、どうしてセシリアとの関係を後押しするようなことを言ってしまったのだろう。