悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
やっぱり、彼は最悪な男だった
そんなわけで私はトラスター公爵家の使用人の仕事に応募し、見事に採用となった。
私が採用された経緯は、お兄様からよく聞いた。私の兄であるお兄様の紹介であるため、即採用とのこと。やはり、私と関係のある人は採用されるのだろうか。ルーカスは何を企んでいるのだろう。
家を出る前に、鏡の前で自分の姿を見た。
お兄様に貸してもらった男性用の服に丸い眼鏡、茶色い短髪のウィッグ。もとから胸は小さく、きつく締め付けているためあまり目立たない。だとしても。私は男性に見えるのだろうかと不安に駆られる。
「大丈夫だよ、セシリア」
お兄様はそう言って笑うが、私をからかっているのだろうか。お兄様がどこまで本気か分からないが、私はかなり本気だ。とにかく、ルーカスにセシリアとバレてはいけない!
家を出ようとする私に、マロンが寂しそうに擦り寄ってくる。マロンとしばらく会えないのは寂しいが、我慢しなければならない。いずれにせよ、私はまたこの家に戻ってくるからだ。
「マロン、少しだけ行ってくるわね」
マロンを抱き寄せ、そのもふもふに頬ずりをする。柔らかなその毛が、頑張れとでも言うようにそっと私を撫でる。
「元気に戻ってくるから!」
こうして私は、お兄様とトラスター公爵家へ向かったのだった。