悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
 
「と、とんでもございません!」

 どぎまぎする私。

 酷く罵られるのは慣れているが、こうも持ち上げられるのには慣れていない。しかも、こうやっていきなりやられるなんて、防御の仕様もない。


「お前の前で弱音なんて吐きたくないが、今日だけは吐かせろ。

 ……正直、参ってるんだよ」

 ルーカスは余裕のない声で告げた。

 落ち込んでいるルーカスを見ているのが辛くて、いつもの暴君に戻って欲しくて、思わず言ってしまった。

「私だって、ルーカス様が羨ましいと思うこともあります」


 ルーカスは驚いて私を見る。至近距離でその瞳を見ると、不覚にも胸がときめいてしまう。だけど、いけないと言い聞かせる。

「自分の気持ちに正直なこととか、人に媚びを売らないとか……」

 そして付け加えた。

「ずっと、セシリア嬢だけを好きでいらっしゃることとか……」


 正直、それが厄介でもあった。だけど、こうもいつも気持ちを押し付けられると、正直胸が痛い。ルーカスのセシリアへ向けた言葉は、嫌いなものを好きになろうとする態度は、少しずつ私の心を蝕んでいるのだ。……少しずつ、時間をかけて。


 ルーカスと結婚しても、幸せになれないだろう。それなのに、いつしかその気持ちが嬉しいとさえ思うようになってしまっていた。


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