悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
夕方。マッシュの散歩の時間だ。
ルーカスは一日中仕事で忙しそうにしていたが、散歩の時間になると仕事の手を止め、マッシュのリードを手に取る。その瞬間、狂乱し始めるマッシュ。その美しく白い毛を振り乱し、キャンキャンワンワンいって走り回る。挙げ句の果てに、興奮しすぎてルーカスに激突している。
ルーカスはマッシュが激突したすねをさすりながら、
「このクソ犬……」
イラついたように吐き出す。
犬を飼うといった責任を自分で取っているルーカスはすごいと思うが、ルーカスだって仕事が大詰めだ。花祭りはもう数日先にまで迫っている。
「ルーカス様。もしよろしければ、私が夕方の散歩をしても構いませんか? 」
そう聞く私を、驚いた顔で見るルーカス。
「いや、俺が行く。
このクソ犬を飼うと言い始めたのは俺だ。俺が責任を持って面倒を見ないと」
その責任感は素晴らしいし、見習わないといけないとさえ思う。だが、この状況でルーカスがマッシュの散歩に行かないといけないのもおかしい。手が空いている私がすれば、ルーカスだって業務に集中出来るはずなのに。