悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「ルーカス様……」
どう言えば、ルーカスが業務をしてくれるか必死で考えた。そして私は告げたのだ。
「私だって犬が大好きです。
私だってマッシュと散歩をしたいのに、いつもルーカス様ばかりずるいです!」
ルーカスは怒るだろう。そして、我ながらいつの間に、ルーカスに大きな口を叩くようになったのかと驚くばかりだ。
ルーカスは殺気を込めて私を睨んだが、次の瞬間、ホッとしたような顔になる。
「それなら、夕方の散歩はお前に任せる」
そう吐き捨てて、書類に目を落とした。
……ほら。ルーカスだって、一人で抱え込んでいたわけじゃないの。そして、私を頼ってくれて嬉しくも思えた。
狂乱するマッシュを捕まえて、慣れた手つきでリードを付ける。そして部屋を出ようとした私を、
「クソチビ」
ルーカスは呼んだ。思わずビクッと飛び上がり振り返る私を、ルーカスは優しげな笑顔で見た。
「ありがとな」
そういうの、やめて欲しい。礼なんて、いらない。
私は今セリオなのに、どうしてそんな顔をするのだろうか。ルーカスに惹かれたくないのに、そうやって優しくされるたびにどきんとする。もっと笑って欲しいと思ってしまう。私は、完全にルーカスに毒されている。