悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。


 マッシュと中庭に出た私は、真っ赤な顔で足早に歩いている。そんな私の頭の中を、笑顔のルーカスが行ったり来たりを繰り返す。

 最近のルーカスはおかしい。使用人の私にも優しいし、私を褒めることさえする。初めて会った時のように、豪快に暴言でも吐いてくれれば私だって気楽なのだが。

 そもそも、私はルーカスを遠ざけるために、この公爵邸へ来た。ルーカスが他の令嬢に惚れてくれるのが目的で、私がルーカスに惚れるだなんてあり得ない。ミイラ取りがミイラになってはいけない。これ以上ルーカスに惹かれてしまうのなら、早々に辞職するべきだろう。



「ねえ、マッシュ。

 マッシュはこの家に来て、幸せ? 」

 マッシュは首を傾げ、丸い瞳で私を見て尾を振っている。

 マッシュは幸せだろう。ルーカスだって犬嫌いなのに、マッシュをすごく大切にしている。

< 133 / 267 >

この作品をシェア

pagetop