悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

「私は……」

「幸せじゃないのか? 」

 不意に声がして、飛び上がってしまった。おまけに変な叫び声まで出てしまった。

 声のする先には、騎士服を着た笑顔のお兄様が立っていて、

「び、びっくりさせないでよ」

私はヘナヘナと地面に座り込んでいた。そして、相手がお兄様だと分かっても、胸はまだバクバクと音を立てている。

 お兄様を見ると、あの舞踏会の日のことを思い出してしまった。私はこんなにも拗らせているのに、お兄様は令嬢たちと一夜の恋を楽しんでいた。あんなこともこんなこともしているのだろうと思うと、顔が真っ赤になる。


 そんな私の胸の内を知らないお兄様は、笑顔で告げる。

「ルーカス様と仲良くやっているんだな。噂で聞いてるよ」

「噂!? 」

 思わず聞き返してしまった。確かにルーカスとは険悪な仲ではないが、噂になるような仲でもない。

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