悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
お兄様は悲しげな顔で私を見た。きっと、お兄様だってこの身分制度のせいで、理不尽な思いをたくさんしてきたのだろう。私たちはただの平民ではなく、罪人の子供だ。お父様の冤罪さえなければ、お兄様は伯爵の爵位を継ぐ立場だった。
「平民でも……きっとルーカス様は分かってくださる」
だけど、万が一ルーカスが分かってくれたとしても……その周りはどう思うのだろうか。
平民の、いや、罪人の娘が公爵子息と結婚なんてすると、全力で反発するだろう。ルーカスの評判を落とすことにもなる。ルーカスが破茶滅茶で乱暴者で、だけど優しい人だったとしても、ルーカスの足枷になることだけは避けたい。
「ねえ、お兄様? 」
私は努めて平静を装い、お兄様を見上げていた。
「どうしてお父様は、爵位を剥奪されたの? 」
私には関係ないことだと思っていた。私が知ってもどうにもならないと思っていた。私がその件について興味を持つと、お父様を苦しめると思っていたから……だから今まで、敢えて聞かないでいた。だが、身分制度が結婚を邪魔する状況になった今、聞かずにはいられなかった。