悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
お兄様はまた悲しそうな顔をした。舞踏会を余裕の表情で楽しんでいたお兄様からは、想像がつかないような顔だった。そしてそのまま、お兄様は静かな声で話し始めた。
「あれは俺が学院を卒業し、ロレンソ伯爵の後継者として本格的に父上の補佐を任された頃の話だった」
静かに話すお兄様の言葉を、私はマッシュを抱き上げて聞く。
「ロレンソ伯爵家は多くの富と広い領地があり、数世代に渡って安定した財政を築いていた。堅実な父上も新しいことすらしないが、ロレンソ家は何不自由ない毎日を送っていた。
ある日父上のもとに、国王の側近と呼ばれる者から手紙が届いた。
ロレンソ伯爵領で採れる油は純度が高く、燃やした際に出る嫌な臭いも少ない。おまけに、一旦火を点けると、消火作業をするまで半永久的に燃え続けると評判だ。そこで国王は、国を挙げてロレンソ伯爵領での油の採掘を薦めたい。とのことだった。
そこで父上は手紙に書かれた通り、ロレンソ伯爵領の油のサンプルを持って、宮廷へ出かけた」