悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

 そう。今の暮らしが恵まれていないとはいえ、命があってこそだ。そして、何よりも悲しんでいるのはお父様に違いない。犯人について見当もつかない私たちは、今さらどうすることもできない。今置かれている環境で、最大限幸せに生きるしかないのだ。

 そう考えると、やはりルーカスとの結婚はないと思う。


「辛いね、お兄様」

 すると、お兄様は少し悲しそうに笑った。

「俺はセシリアがそんな顔をすると思っていたから、この話をしたくなかった。

 ルーカス様との結婚だって、セシリアが嫌なら止めればいいと思う。

 でも、舞踏会でルーカス様に会ってから、お前はルーカス様に対する見方も変わったのだろう? 」

「えっ!? 」

「お前の顔を見ていれば、すぐに分かる」


 私はばっと顔を隠した。ルーカスはないとずっと思っていたのだが、そんなデレデレした顔をしていただなんて。いや、今だって、ルーカスはないと思っているのだが。

「お、お兄様!チャラいくせに、私の心も見抜けないなんて、まだまだね!」

 慌ててそう言うが、心臓があり得ないくらい速い。舞踏会の夜のルーカスのキスだとか、優しい笑顔だとかを思い出して、さらに胸がドキドキする。

 ……さすがチャラ男お兄様だ。侮ってはいけなかった!!

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