悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

 トラスター公爵は何も言わなかった。きっと、否なのだろう。

 お父様が無罪だったとしても、今や爵位すらない。トラスター公爵は、ルーカスと平民の結婚を望んでいないのだろう。そして、お父様の無罪だって、今となっては証明しようがないのだ。

 そんなこと分かっているが、実際にこうやって目の前で話されると堪える。ルーカスなんて願い下げのはずなのに、胸がこんなにも痛むのはなぜだろう。


「セシリア嬢にこだわるのなら、ロレンソ元伯爵の代わりに伯爵になった、ブロワ伯爵令嬢のマリアナ嬢なんてどうだ? 」

「嫌です」

 ルーカスはピシャリと言ってのけるが、私の胸はまだズキズキと痛む。分かっていることだが、トラスター公爵をはじめ、ルーカスと私の結婚を望んでいる人なんて誰もいないことを思い知る。

 こんなにも周りから反対されて結婚しても、幸せになれるはずがない。それはルーカスも然りだ。ルーカスは私と結婚すると、一生後ろ指を指されることになる。


「お前は嫌だろうが、マリアナ嬢に会ってみたらどうだ?

 彼女は容姿端麗で、社交界でも人気がある。

 明日、マリアナ嬢に公爵邸(ウチ)に来てもらうよう手配している」

 トラスター公爵は、そう言い放ってルーカスに背を向けて去っていった。その後ろ姿を睨みながら、

「クソオヤジめ!! 」

ルーカスは怒りに肩を震わせていた。

 そんなルーカスを見ながらも、私の胸はただ泣きそうな悲鳴を上げるのだった。

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