悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

「ルーカス、お前ももうそろそろ現実を見よ」

 トラスター公爵は厳しい顔でルーカスを見る。

「私は今からブロワ伯爵と話がある。
 お前もブロワ伯爵に挨拶をしてから、マリアナと若い者同士自由にしていなさい」


 ルーカスはトラスター公爵に続いて部屋を出て行ってしまった。それで私は、不覚にもマリアナ様と二人きりになる。

 マリアナ様はいきなりルーカスの酷い態度を見て、幻滅したのではないか。それとも、ルーカスの言葉を聞き、悲しんでいるのではないか。そう思った私は、思わずマリアナに話しかけていた。


「マリアナ様、ルーカス様が酷いことを言って、申し訳ありません。

 ああ見えても、ルーカス様は仕事もお出来になり、いい方なのです」

 するとマリアナ様は天使のような笑顔……ではなく、先ほどのルーカスのような無表情で私を見た。さっきまでの優美なオーラも、氷のようなオーラに変わってしまっている。その変貌に驚くばかりだ。

 さらに、マリアナ様は無表情のまま、冷たい声で告げた。

「あなたみたいな使用人が、気安く話しかけないでくれる? 」

「も、申し訳ありません」

 私は深々と頭を下げていた。

 私のせいでマリアナ様を不快にしてしまったら、使用人を辞めさせられるに違いない。きっと、ルーカスは笑ってくれるが、トラスター公爵が許さないだろう。

 そして、マリアナ様を見てつくづく女性は怖いと思った。公爵やルーカスの前ではお淑やかにしているが、本性はこれだ。マリアナ様は使用人の私に媚を売っても意味がないと思い、邪険に扱ったのだ。

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