悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。



 気まずい沈黙が続き、だるそうに座るマリアナ様の後ろに、ただ私はぼーっと立っていた。だが、ルーカスがブロワ伯爵と話を終えて戻って来た瞬間、マリアナ様はぴしっと背筋を伸ばす。そして、嬉しそうに立ち上がって、ルーカスに駆け寄るのだ。

「ルーカス様、お待ちしておりました」

 マリアナ様はにこにこしてルーカスに手を差し出すが、ルーカスは気付かないふりをして横を向く。マリアナ様とルーカスはお似合いだと分かっているのに、そんなルーカスの様子にホッとしてしまう自分がいた。



 マリアナ様は見た目とは違い、強い女性らしい。ルーカスが手を差し出してくれないことが分かるや否や、ルーカスの腕にぎゅっと掴まる。そして体を擦り寄せ、上目遣いでルーカスを見た。

「ルーカス様、明日は花祭りですわね。

 わたくし、明日もあなたに会えることを、楽しみに思っております」

 ルーカスは無視を決め込んでいるようだ。だが、マリアナ様も強い。

「少しあちらを散歩したいですわ。

 もしよろしければ、ご案内いただけますかしら? 」

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