悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
私はルーカスの様子を伺うため、そして令嬢を仕向けるため、この館にやってきた。私にとってルーカス専属の使用人という立場は、何かとやりやすいに違いない。
だが、お兄様から聞いたルーカスの様々な悪評を思い出すと、恐怖すら感じるのだった。しかも、ウンベルトさんも、半ば哀れみの表情で私を見ているのだ。ルーカスの評判は、そこまで悪いのだろう。
「いいか、セリオ。ルーカス様の相手は、一筋縄ではいかないだろう。
困ったことがあれば、いつでも相談に乗る」
ウンベルトさんはそう言ってくれるのだが、その言葉がさらに不吉に感じる。
ルーカス専属の使用人は、そんなにも精神がすり減るのだろうか。ただ、私は一生ここで働くつもりではない。耐えられなくなったら使用人を辞めるという選択肢もある。そう必死で考えることにした。
「まずはルーカス様にご挨拶を……」
ウンベルトさんの言葉は、
「挨拶? 」
馬鹿にするような声で掻き消された。思わず声のするほうを見ると、随分と大人になった彼がそこにいた。
「挨拶なんてしなくていいよ。どうせこいつもすぐ辞めるんだろ? 」
彼は格好の獲物を見つけたような目で私を見て、ニヤニヤ笑いながらそう告げるのだった。