悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。


 女性の甲高い悲鳴と、それに続いてかすかに聞こえた犬の唸り声。その唸り声を聞いて、まさかと思った。そして私は悲鳴のした方へと走っていた。




 随分と傾いた太陽の光を浴び、花の咲き誇る中庭に、彼女たちはいた。マリアナ様は半ば怯えた顔で、ルーカスのシャツを掴んでいる。そして、マリアナ様の足元には、眉間にしわを寄せてマリアナ様を睨む小さなマッシュがいた。

「マッシュ!何やってるの!? 」

 慌てて止めに入る前に、ルーカスがマッシュを抱き上げる。すると、マッシュは急にしっぽを振りながらルーカスの顔を舐め始めるのだ。

 優雅な見た目とは違って元気いっぱいのマッシュだが、人に牙を剥いて唸るところなんて初めて見た。そして、いつの間にかルーカスはすっかりマッシュに慣れているのだ。

「だ、大丈夫でしたか!? 」

 二人の邪魔をしてはいけないと思いつつも、気になってしまってルーカスに聞く。すると、ルーカスはマッシュを抱き上げたまま、無表情で頷いた。

「……あぁ」

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