悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
ルーカスから離れて厩舎へ向かう。厩舎で馬を借りて、家まで帰ろうと思っているのだ。それなのに、なぜかジョエル様も私の後を追ってくる。
なに? 何か話があるの!?
ジョエル様は足早に私の隣まで来ると、耳元で小声で囁いた。
「危なかったですね」
……え!?
「このままじゃ、計画が狂うところでしたね」
私は立ち止まって、ジョエル様を見上げていた。信じられないほど、鼓動がバクバクと音を立てていた。
聞かなかったことにしたい。だけど、聞いてしまった。ジョエル様はまさか、私がセシリアだと気付いているのだろうか。
「……おっしゃる意味が分かりませんが」
平静を装うが、私の声は酷く震えている。
ジョエル様は私がセシリアだと確かめて、何をする気なのだろうか。取り引きか何かをする気なのだろうか。
……きっとそうだ。ジョエル様も、ルーカスがセシリアなんかと結婚することを反対しているに違いない。