悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

「る、ルーカス様。セリオと申します」

 私は反射的に告げ、深々と頭を下げた。

 ルーカスは腕を組んで、私を品定めするようにじろじろ見る。そして、馬鹿にするように笑いながら告げた。

「女? 女とか、いらねーんだけど」

 その言葉にビクッと飛び上がる。

 まさか、ルーカスは一目見て私を女だと見抜いたのだろうか。背筋がゾッとする。

 だが、

「ルーカス様。セリオはれっきとした男性であります。

 セリオはただいま到着したばかりで、とても緊張しております。どうかお手柔らかに……」

ウンベルトさんはそう告げて頭を下げる。

 さすが執事長なだけあって、完璧で見惚れてしまうような所作だ。しかも、ルーカスの扱い方をよく知っている。私は舌を巻いたが、ルーカスはやはりただものではなかったのだ。


「じいや」

 なんと、ウンベルトさんをじいや呼ばわりする。ウンベルトもじいやと呼ばれるほど、歳ではないのだが。

「お前、うるせぇんだよ」

 ルーカスはにやつきながらも、自分の父親ほどの年齢の相手に失礼なことを言う。そして、不満げに付け加えた。

「こいつは俺の専属なんだろ? ……てことは、俺が自由にする権利もある」


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