悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
馬を走らせニ、三時間。そろそろ体が疲れてきた頃に、ようやく森が見えてきた。そして、森の外れにある小さな家が少しずつ近付く。
立派なトラスター家にいたからこそ、自分の家がいつも以上にちっぽけに見える。そして、身分差をひしひしと感じる。
ルーカスもジョエル様も身分なんて関係ないと言うが、関係ないはずがない。実際、トラスター公爵は、ルーカスと私の結婚に反対であるし、マリアナ様だってそう思っているだろう。マリアナ様だけでなく、その他全ての令嬢だって……そう思うと、頭が痛くなるのだった。
「お帰り、セシリア」
いつものようにお母様が出迎えてくれる。
すっかり庶民になってしまったお母様は、ぐつぐつとシチューを煮ている。昔は料理とは無縁の生活を送っていただろうに、今の現状に何も思わないのだろうか。
お父様は部屋の奥で、マロンの体を洗っている。こうやってマロンを可愛がるお父様を見て、ルーカスを思い出してしまった。そして、例外なく胸がきゅんと鳴る。
「セシリア、お帰り。
明日、トラスター公爵令息のルーカス様に、花祭りに呼ばれているんだよな? 」
心配そうなお父様に、笑顔で答える。
「はい。でも、迎えに来られた時に断ります。
私がルーカス様と結婚だなんて、やっぱり無理ですから」