悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。


 努めて平静を装ったはずだった。それでも、言葉にすれば胸が痛む。

 お父様はこんな私を見て、悲しそうな、それでいて申し訳なさそうな顔をする。お父様は悪いことをした訳でもないのだし、責任を感じなくてもいい。だから私は、なおも元気に振る舞った。

「私は、本当に好きな人と結婚したいのです」


 そう言いながらも、ルーカスに惹かれていたのも事実だ。

 ルーカスなんて願い下げだったのに、今はいいところもたくさん知っている。そして何より、私だけを好きでいてくれる。ルーカスは八年も私を思い続けてくれて、今だって私だけを見てくれている。この後、他の女性に目移りする可能性はないとは言い切れないが……今までのルーカスの様子を見ると、私をずっと好きでいてくれる可能性は高いと思う。きっと、ルーカスと結婚出来れば、幸せな日々が待っているのだろう。

 そんなことを考えてしまった私は、不意にお父様に尋ねていた。

「お父様は罪を被った時、どうして濡れ衣だと言わなかったのですか?

 ……どうして犯人はお父様ではないと、分かってもらえなかったのですか? 」

< 175 / 267 >

この作品をシェア

pagetop