悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
お父様は一瞬驚いた顔をして、そして俯く。その顔からは、悲しみや苦悩が伝わってくる。
お父様はその事件について、掘り返して欲しくはないのだろう。だが、この事件が結婚の大きな足枷となってしまった今、聞かずにはいられなかった。
やがて、お父様はぽつりと呟いた。
「もちろん、私はしていないと主張した。だが、分かってくれる人がいるはずもなかった。
私自身は、もうどうでもいいんだ。でも、その件で、セシリアやマルコスに迷惑をかけるのが辛い……」
お父様は爵位を剥奪され、絶望しただろう。そして今は、未来の希望もなく随分投げやりになっている。だが、最後の最後まで、私たち子供の心配をしてくれていることに心を痛めた。
出来ればお父様に、昔のような希望にあふれた顔をしていて欲しい。だが、事件について見当もつかない私は、何も出来ないのだ。だからといって、ルーカスと結婚する自信もない。