悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。


「で、ですが、ルーカス様!また辞められなどしたら……」

 ウンベルトさんはとても優しくていい人なのだろう。私のことを出来る限り庇おうとしてくれる。その気持ちは嫌と言うほど伝わったのだが……相手は公爵家の暴れん坊だ。執事長が敵うはずもなかったのだ。


「辞めるなら勝手にすればいい。俺が気に入らないのなら、勝手に辞めればいい」

 情け容赦もない、自己中心的な発言だ。やっぱりルーカスは……ないな。心の中で深く頷いた。




 私はこの暴君を、ずっと見ていた。

 記憶の中のルーカスより、さらに背が伸びて大人びている。ブロンドの髪は太陽の光を浴びて輝き、目鼻立ちはしっかりしていて彫りが深い。いわゆるイケメンの類だろう。イケメンの中でも、かなり上位のイケメンだ。少年時代のルーカスも美少年だなあとは思っていたが、大人になったルーカスは、私の想像を遥かに超えていた。

 でも……破壊的にダメなこの性格が受け付けられない。類い稀な美貌を持っているのに、この性格が全てを駄目にしてしまっているのだ。

「……もったいない」

 思わず呟いてしまった私を、

「……は? 」

ルーカスは嘲笑うような、馬鹿にするような顔で見る。その綺麗な顔が意地悪く歪んでいる。

「何がもったいないんだ? 」

 ルーカスは片眉を上げて、馬鹿にするように聞く。だから私は、

「な、何でもないです」

慌てて告げた。

 危ない危ない。昔は公爵令息とはいえ、同じ学院に通う者同士対等な関係だった。だが、今は遥かに私が下なのだ。ルーカスを怒らせることなんてしないほうがいい。

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