悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「わ、私……」
必死で言い訳を考える私に、笑顔でお兄様は言う。
「とりあえず、行ってみよう」
……は?
抵抗する間もなく、お兄様に腕を引っ張られて、馬車に投げ入れられる。
騎士であるお兄様には、私が全力で抵抗しても勝てるはずがなかった。それどころか、しばらく会っていないうちに背も伸び、体もがっしりしている。
イケメンで強いお兄様、女性関係には不自由しないと思うのに……ルーカスによると、お兄様だって苦しんでいるのだ。私たち一家が皆、お父様を嵌めた人物によって苦しめられているのだ。
慌てて馬車から降りようとするが、私に続いて馬車に乗り込んだルーカスが、ぴしゃりと馬車の扉を閉めた。そして、出ようとする私の体を不意に抱きしめる。
「セシリア」
耳元で甘く囁かれ、その吐息が耳にふっとかかり、全身を戦慄が走る。一瞬でふにゃふにゃになってしまった私の体を優しく抱きしめながら、ルーカスは低く甘い声で告げる。
「お願い、来てくれ。
セシリアが来なかったら俺は……寂しくて死んでしまいそうだ」