悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
公爵邸に着いて馬車を降り、館に入るや否や、マッシュが飛び出してきた。きゃんきゃんくんくんと鳴き、私に飛びついてくる。私は思わず、この愛らしいマッシュを抱き上げていた。すると、マッシュはくんくん言いながら、私の頬を舐め回す。
「可愛いだろ。セシリアなら、喜んでくれると思った」
ルーカスが嬉しそうに告げる。いつもはクソ犬と呼んでいるのに、今日は可愛いだなんて言っている。その様子に笑いを隠せない。
「こいつ、大好きな使用人がいなくなってから、ずっと寂しがっていて。
使用人以外にはそんなに懐かないのに、お前には懐くんだな」
マッシュを抱えながらドキッとした。
使用人とは、紛れもなく私のことだ。そしてルーカスは、本当にセリオが私だと気付いていないようだ。ジョエル様が何も言っていないようで、心底ホッとした。