悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
ルーカスは、私とジョエル様の顔を交互に見た。そして、怪訝な表情で聞く。
「お前たち、知り合いか? 」
きっと、初対面にしては馴れ馴れしくしすぎたのだろう。
はっと我に返り、
「いえ……」
慌てて否定した。
だが、ジョエル様はにこにこしたまま告げる。
「僕は、あなたのことをよく知っています」
私は飛び上がりそうになる。
ジョエル様は空気を読んで、私のことを知らないふりをしてくれるのかと思ったが……そうでもないのだろうか。まさか、ここで私がセリオだと暴露するのだろうか。
震える私に、相変わらず笑顔でジョエル様は言う。
「あなたのことは、兄上から耳が痛くなるほど聞いていました。僕は兄上がまたうつつを抜かしていると思っていたのですが……
あなたは、僕の想像以上に逞しくて、そしていい女性でした」