悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「……それはなんだ? 」
「惚れ薬ですよ」
ジョエル様はにこにこと笑いながら桃色の小瓶を振った。背中にゾゾーッと寒気が走る。
まさか、ジョエル様はそれを私に……なわけ、ないよね。
ジョエル様もきっと、私のことをからかっているだけだろうという結論に至る。
だが、ルーカスは気になって仕方がないらしい。
「ジョエル、まさかお前……」
彼は私の手をぎゅっと握ったまま、怒りを込めてジョエル様を睨んでいる。
ルーカスのあまりの殺意に、私は思わず怯んでしまった。だが、ジョエル様は強いらしい。いつもの笑顔を崩さずに告げた。
「僕はこんなものを使うのは嫌なんですけどね。
……とあるご令嬢に頼まれまして」
余裕のジョエル様を、ルーカスはさらに殺気を込めて睨んだ。そして私はそんな二人の様子を見ながら、必死に考えている。
誰がなんのために、ジョエル様に惚れ薬なんて頼んだのだろう。私とルーカスに関わりがないことを祈るばかりだ。