悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「セシリアー」
階下から、お母様が私を呼ぶ声がする。私は手紙をクローゼットに押し込み、急いで階段を降りた。
「セシリア、パンとミルクが無くなったわ。
おつかい頼めるかしら」
お母様はいつもと同じように私に話しかけ、いつもと同じように財布とバッグを私に差し出す。その様子に安心しつつ、差し出されたバッグを受け取った。
「マロンの散歩もよろしくね」
「はーい」
私は、愛犬マロンをリードで繋ぐ。外に連れ出してもらえると分かったマロンは大興奮だ。そのもふもふの体をくねらせ、ちぎれそうなほど尻尾を振る。
「ほら、マロン、暴れないの!」
マロンの前にかがむと、ぺろぺろと顔を舐め回される。可愛いマロンは、私の癒やしだ。
こうやってマロンと戯れている私に、お母様は告げた。
「寂しくなるわね」
「……え? 」
思わず聞き返してしまう。私の頭の中には、ルーカスからの手紙が思い浮かんだ。まさかとは思うが……
「セシリアは優しい自慢の娘だもの。
トラスター公爵令息と結婚出来るなんて、あなたは幸せ者だわ」
お母様はうっとりとした表情で私を見つめる。その様子は、嘘を言っているようには思えない。