悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

 ルーカスはきっとジョエル様を睨み、ぐいっと私の手を引く。予想外の力で引かれたため、私はバランスを崩してよろめいた。

 このまま無様に地面に倒れ込むと思ったのに、ルーカスがそっと抱き止めてくれる。不意にルーカスに抱きしめられる形となり、ルーカスは耳元でそっと囁いた。


「悪い、セシリア」

 息が耳にかかり、ゾゾーッと体を震えが走る。

「お前のことは、何としても俺が守るから」

 その言葉が素直に嬉しいと思ってしまった。そして何より、胸がドキドキきゅんきゅんとうるさい。

 ルーカスは私を抱き止めたまま、荒々しくジョエル様に言い放った。

「それをセシリアに飲ませたら、俺は兄弟の縁を切るからな!」

 冗談でしょ? と思うのに、ルーカスは全く笑っていない。だが、動揺しているのはどうやら私だけのようだ。ジョエル様は相変わらず優しい笑顔で答えたのだ。

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