悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「いえ、彼女には飲ませません」
でも、それってまさか……いや、私の思い過ごしであって欲しい。
ルーカスに対する恋心を知ってしまってから、この気持ちはどんどん深まるばかりだ。ルーカスとの恋には障害がたくさんあり、幸せになれる保証もない。ルーカスにはもっと素敵な令嬢が相応しいことも分かっている。
だが、万が一ルーカスが別の女性に惚れてしまったら……私は立ち直れないかもしれない。
「行きますよ、セシリアお嬢様」
ルーカスはわざとらしく甘い声でそう告げ、私の手をルーカスの腕へと回させる。そして、慣れないドレスを着ている私の歩幅に合わせ、ゆっくりと歩き始めた。
いつもの自己中の振る舞いと、この紳士的な対応のギャップにくらくらする。ルーカスの本質は、凶暴で自己中だ。だが、私だけには違うのだ。私にだけ優しくて、甘くて、そしてまっすぐだ。
この特別扱いが、いつの間にか嬉しく心地よいものとなっていた……