悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。



「ルーカス様」

 不意に鼻にかかったような高い女性の声がした。甘えたような、色気さえ感じるその声を聞くと、胸がもやっとする。

 見ないでおこうと思ったのに、振り返られずにはいられなかった。だが、その光景を見ると、さらに胸が締め付けられた。



 スーツを着たルーカスの前には、ピンク色のドレスを着て、髪を編み込んだマリアナ様がいた。もとの素材がいいだけに、着飾ったマリアナ様はまるで女神のようだ。格の違いをまざまざと見せつけられた思いだった。

 マリアナ様はやはり甘い瞳でルーカスを見て、頬を染めている。

「ルーカス様、本日はお誘いいただき、ありがとうございます」

 その言葉をルーカスは無視し、内心ホッとしてしまったのは言うまでもない。だが、マリアナ様はここで諦めるような女性でないことも確かだった。

「ルーカス様、さきほどいただいた薔薇酒、とても美味しゅうございました。

 よろしければ、ルーカス様にも飲んでいただきたく存じます」

 マリアナ様はグラスに入ったピンク色の薔薇酒をルーカスに差し出す。だが、ルーカスは

「いや、いい」

ぶっきらぼうに言い放ち、それをマリアナ様に突き返した。

 その様子を見てホッとしつつも、背筋がゾゾーッとした。あの薔薇酒ってまさか……


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