悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。


「ルーカス様、飲んでいただけませんか? こちらは私のイチ押しでございます。

 わたくしは、ルーカス様が薔薇酒を召し上がっていただけたら席に戻ります」


 ルーカス、それは飲んではいけない!! なんて言う間もなく、ルーカスはぐいっと薔薇酒を一気飲みした。そして、マリアナ様は満足げに口角を上げる。

 その表情を見て、私は確信した。やはりあの薔薇酒が惚れ薬だったのだ。ルーカスはきっと私のことなんて忘れて、マリアナ様を好きになるのだろう。そして、今まで私にかけてくれた甘い言葉を、マリアナ様にかけるのだろう。




「セシリア様、少し向こうへ行きませんか? 」

 不意に声をかけられて、私ははっと前を向いた。そして、泣いてしまいそうなのを悟られないように、必死に笑顔を浮かべる。

 私の前にはいつもの笑顔のジョエル様がいて、笑顔のまま私に手を差し伸べている。その手を取ることはもちろんしなかったが……私は立ち上がっていた。ルーカスがマリアナ様にベタ惚れして、甘い言葉を吐いているところなんて見たくなかったからだ。


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