悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。



 人がパレードに夢中になり、随分と人がいなくなった庭園を、ジョエル様と歩いた。ジョエル様はやはり紳士で、私に合わせてゆっくりと歩いてくれる。それが、先ほどのルーカスを思い出させ、さらに胸が痛くなる。

 ルーカスとは結婚出来ない。ジョエル様とももちろん結婚しない。だが、ルーカスが他の令嬢に惚れるのは嫌だ。……あんなに望んだはずなのに。




「兄上が惚れ薬を飲んでくださって、良かったですね」

 ジョエル様は笑顔で告げる。

「これで、貴女も兄上に追い回されることはなくなるのでしょう」

 私は言葉を返すことが出来ず、俯いた。



 ルーカスが他の令嬢に惚れることを望んでいたのは、他でもない私だ。だが、実際にルーカスを失ってしまうと、改めて思った。

 あのルーカスの笑顔を独り占めしたかった。ルーカスにもっと好きだと言われたかった。ルーカスに甘やかされ、心配されたかった。身分不相応だと分かりながらも、嬉しかった。

< 206 / 267 >

この作品をシェア

pagetop