悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「貴女も、晴れて兄上の束縛から逃げることが出来ます」
「……そうですね」
私の声は震えていた。
ルーカスは、きっともう私を探してくれないのだろう。私がジョエル様と歩いていても、見向きもしないのだろう。あの甘いキスだって、そっと触れてくれることだって、もうないのだ。私はセリオとしても使用人を退職し、もうルーカスに会うこともないのだ。
ルーカス、好きだった。本当に、好きだった。
この結末を望んでいたのに……今となって悔やむなんて、私は大馬鹿だ。