悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「セシリア様。僕は、兄上よりも優しいです。それに、貴女をきっと大切にします」

 その言葉をルーカスから聞きたかった。いや、ルーカスは何度も愛を告げてくれた。それなのに、私は立場を気にして応えなかった。マリアナ様とルーカスが結婚することになって悲しむなんて、自業自得だわ。



 ジョエル様はそっと私の肩に手を置いた。そして、ルーカスによく似たその顔をゆっくり近付けるが……

 私は思わず顔を背けていた。

「申し訳ありません……」

 震える声で、ジョエル様に告げる。

「私は……ルーカスが好きなのです」

 今さら言っても遅いのに。なに悪あがきをしているのだろうか。それに、ほら。ルーカスは私がいなくなっても探しさえしていない。



 ジョエル様は悲しげな顔で私を見た。優しいジョエル様にこんな顔をさせるなんて、私はなにをしているのだろう。こうやって、ルーカスに素直になれず、ジョエル様まで傷つけた。私は最悪な女性だ。


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