悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
今回の一件も、私のせいだ。素直になれなかった私が悪いのだ。ジョエル様は何も悪くない。それなのに、ジョエル様に感謝の言葉すら言えない私は、最低な女だ。
「セシリア様。僕の心は、貴女とともにあります」
手を差し出せば、ジョエル様は私を愛してくれるだろう。ルーカスよりも紳士的で、優しく対応してくれるだろう。だけど、私はルーカスが好きだ。いくら傲慢で自己中でも、根は優しくて私だけを特別扱いしてくれるルーカスが好きなんだ。
去っていくジョエル様の背中が、やたら小さく見えた。だが、その背中に抱きつきたいなど、甘い気持ちになることもなかった。
ジョエル様の背中を見つめながらふと思った。
私とルーカスは両思いとはいえ、結ばれてはいけない恋だ。ルーカスと結婚すれば、私が悪者扱いされるだけでなく、ルーカスだってそれ相応の仕打ちを受けるだろう。ルーカスが次期トラスター公爵として成功するには、妻が私であってはいけない。今となっても、それは強く思う。
ルーカスと私を引き裂くには、惚れ薬は強引でいい手段だったに違いない。ルーカスがマリアナ様に惚れているのなら、私だって手を引きやすいはずだ。
結局、私がこの辛い気持ちを我慢すれば、全てがうまくいくのだ……
よし、やっぱり、ルーカスとの関係を断とう。そして、ルーカスにはマリアナ様と幸せになってもらおう。
私が立ち上がったその時だった。