悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「ルーカス様はもうじき、私に惚れるわ。
犯罪者の娘のくせに、いつまでもみっともなくルーカス様にすがるのはやめてくださる? 」
ここは身を引くべきだということは分かっている。身分相応である上に、ルーカスの気持ちがマリアナ様に傾いてしまったのなら、身を引く以外に何もないだろう。
だが、マリアナ様がお父様を侮辱したことが、保っていた私の平常心を崩させた。心の中がぷつっと切れ、私はマリアナ様に向かって言葉を吐きかけていたのだ。
「お父様のことを悪く言うのは、やめていただけませんか? 」
その声は、怒りと絶望でひどく震えている。そして、マリアナ様はこんな惨めな私を余裕の表情で見下ろし、口角を上げてわざと甘ったるい声で答えたのだ。
「没落した庶民のくせに、伯爵令嬢の私に生意気な態度を取るのね」
そしてマリアナ様は、近くにいた護衛に声をかけた。
「この、身分相応で卑しい女性を、会場の外へ放り出してくれる? 」