悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。

「俺はセシリアと二人で、どこか静かなところに行くとしよう」


 ルーカスは怒りでいっぱいなのに……怒りで歪んだ顔をしていたのに……私を見て、急に優しい笑顔になる。それはまるで雪が溶け、花が咲き誇るような明るい笑顔だった。

 例外なく胸がきゅんと鳴る。いや、きゅんきゅんとうるさいほどに、音を立てている。

「行くぞ、セシリア」

 甘く優しい声とともに、そっと手を握られる。

 ルーカスが触れた瞬間、体に甘い電流が流れる。顔だって、熱を持ってぼっと熱くなる。これ以上ルーカスに嵌ってはいけないと分かっているのに、夢中にならざるを得ない。逃げることすら出来なく、私は操り人形のようにルーカスに従ってしまう。




 こうして私たちは花祭りの会場を抜け出し、二人だけへの場所へと歩いていった。

 見慣れた公爵邸へ入り、階段をゆっくりと上る。ルーカスは何も言わないが、なんとなく分かっていた。ルーカスはこのまま、私を抱くつもりなのだろう。この日のために、指南書(エロ本)を読み漁っていたのだから……


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