悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
公爵邸でも入ったことのない一番奥の部屋へ、ルーカスは私を案内した。
立派な赤い絨毯が引かれた先にあるその扉は、ひときわ大きくて立派だった。その扉をそっと開けると、部屋からはほんのりルーカスの香りが溢れてきた。その香りを嗅ぐと、胸がきゅんと甘く鳴る。
そして、部屋は予想通りルーカスの寝室のようで、天蓋付きの大きなベッドの前に、これまた大きなソファーが置かれている。
「ここでゆっくり話をしよう」
ルーカスは下心はあるのだろう。だが、性急に私を抱こうともせず、傷ついた私の心を気にしてくれる。いつもは乱暴者なのに、こうも優しいと対応に困ってしまう。
ルーカスは私を立派なソファーに座らせ、その隣にそっと腰を下ろした。そして遠慮がちに言葉を発した。
「まずは今回の花祭りで、セシリアに嫌な思いをさせてしまった。……悪かった」
予想外の言葉に、私はルーカスを見つめていた。
ルーカスは苛立ったような情けないような表情を浮かべ、そのブロンドの髪を掻き上げる。その仕草がなんだか色っぽくて、背中がゾクっとした。そしてそのまま額に手を当てて、思い悩むように首を横に振る。
「いや……ごめんな。
俺はセシリアを悲しませるために、ここに呼んだ訳ではない」