悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「お取り込み中失礼します」
急に聞き慣れた声がして、扉が開かれた。そして、扉の先に立っていたのは、酷く動揺した顔をした騎士服姿のお兄様だったのだ。
「ま、マルコス様、どうなさいました? 」
平静を装って聞くが、心臓がバクバクする。一体、お兄様はどうしたのだろうか。
「セシリ……セリオさん、緊急の用事がありまして!」
お兄様は焦ったように私に告げる。その顔は青ざめ、体が少し震えている。お兄様のただならぬ様子に、私まで動揺してしまう。何か嫌な予感がするのだ。
私は、おもむろにルーカスに聞いた。
「ルーカス様、少しだけ時間をいただいてもよろしいでしょうか」
ルーカスはうつろな表情のまま首を縦に振った。だから私は慌てて廊下に飛び出したのだ。