悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
一人でニヤついていた私をルーカスは目敏く見つけ、
「おい、クソチビ」
荒々しく呼んだ。
「ぼーっと突っ立っていないで、早く持ってこい!」
「は、はい!! 」
私は慌てて背筋を伸ばし、ブレンドティーとクッキーをルーカスに差し出す。
元伯爵令嬢なだけあって、改まった場でのマナーは心得ている。ブレンドティーをそっと差し出す私を見て、トラスター公爵は口元を緩ませた。
「君が新しい使用人だね。話は聞いている」
トラスター公爵は、低くて穏やかな声で私に話しかけた。
「倅は我が強く、迷惑をかけることもあるかと思う。
だが、どうか倅をよろしく」
「勿体無いお言葉です。こちらこそ、よろしくお願いします」
私は頭を下げていた。
どうやら、トラスター公爵はちゃんとした男性らしい。ルーカスの父親だからと身構えたが、そこはさすが公爵だ。トラスター公爵が紳士で優しい男性だから、ルーカスの株がまた下がってしまうのだった。