悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
彼だけは信じて、守ってくれた
私はお兄様と家の外に立ち、呆然とその光景を眺めていた。
見慣れた家の外には、たくさんの荷物を積んだ荷馬車が一台停まっていた。そして、家の前もたくさんの家具が積まれている。数人の男たちが、家の中から家具を運び出しているのだ。
不意に家の中からマロンが飛び出してきた。そして家具を運ぶ男性を威嚇する。だが、勇敢なマロンは男性に蹴られて、ボールのように地面を転がった。
「マロン!」
私は思わず叫び、マロンを抱き上げる。マロンはきゅんきゅんと悲しそうに鳴き、私の胸に顔を埋める。
酷い、マロンにこんな暴力を振るうなんて……!!
マロンを抱きしめたまま男を睨んだ私を、少ししわがれた声が呼んだ。
「セシリアさん」
思わず顔を上げると、目の前には見たことのある男性が立っていた。
立派な黒いスーツに、白髪混じりの整えられた髪。背は高く、丸い眼鏡をかけている。一見優しそうな紳士だが、眼鏡の奥の瞳は憎しみに満ちていた。そして、嘲笑うかのように私を見下ろしている。