悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
私はぽかーんと伯爵を見る。何を言っているのか、私には分からない。だが、お父様は果敢にも伯爵に言い返すのだ。
「私はあの日、宮廷に呼び出されました。宮廷に着くと、庭に油が撒かれ燃えていたのだ。
そこであなたに見つかり、放火犯にされました。
あなたが放火したんでしょう? 」
お父様は心底怒っているようだ。顔を真っ赤にして伯爵を睨みながら、震える声で告げる。もし、お父様の言う通り、伯爵が犯人であるなら……私たちはこの伯爵を許さない。何としても償ってもらいたい。
一方、伯爵は余裕だ。腕を組み、相変わらず馬鹿にするようにお父様を見る。
「私が放火するはずがないだろう。
証拠だってないのに」
そこなのだ。お父様は推測でものを言っているだけで、伯爵が犯人だと断定出来るものはないのだろう。実際、犯人は伯爵ではないかもしれない。伯爵もそこを分かっているから、お父様に強く出られるのだろう。
父娘揃って、なんてしたたかで嫌な人たちなのだろう。