悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
お父様は拳を握りながらも俯いた。その様子を見ると、お父様に勝ち目はないのだと悟る。
これ以上お父様を辛い目に遭わせないためにも、ルーカスのことは諦めるべきだろう。私一人の幸せのために、たくさんの人の幸せを奪ってはいけない。
「私は……」
私が口を開いた時だった。
「証拠ならある」
聞き慣れた声がした。その声は私の胸を温かくし、頬を緩ませる。こんな時なのに、体が甘い音を立て、顔が熱くなる。
思わず口角を上げてしまった私の隣に、彼はゆっくりと歩いてきた。何やら、数枚の紙切れを抱えながら。
「間に合って良かった。今朝、筆跡鑑定の結果が出たから」
そう言ってルーカスは、私を見て微笑む。その優しい笑顔を見ると、私も知らないうちに微笑んでいた。そして、心が軽くなるのを感じる。
「ブロワさん。これ以上セシリア一家を苦しめるのなら、俺が今ここで暴露してやる」
ルーカスはまるでいたずらっ子のような笑みを浮かべる。そして、おもむろに二枚の紙を差し出した。その紙を見て、伯爵はあからさまに狼狽えたのだ。