悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
だが、
「君は、倅の同級生であるセシリアの兄の知り合いだそうだな」
急に発せられたその言葉に、飛び上がりそうになった。
やばい、心臓がドキドキいって止まらない。ドキドキというのも、甘いドキドキではなく、嫌な胸騒ぎだ。
出来る限り平静を装う私に、トラスター公爵は告げた。
「倅は、ずっとセシリアに恋をしている。
それで周りの者が、セシリア以外との縁談を勧めるから、性格がひん曲がってしまったのだよ」
「チッ……うるせぇな」
ルーカスはそう言って、私の差し出したブレンドティーを一口飲んだ。そして思わずむせ始める。
私が心を込めて淹れたのに、むせるとは何事だ。
それに……セシリアに恋をしている? どういうこと?
「ルーカス。セシリアだって、今のお前を見ると幻滅するだろう。
もう少し、次期公爵として自覚を持て」
トラスター公爵はそう言い残して部屋を出ていった。