悪役令息とは結婚したくないので、男装して恋愛工作に励みます。
「犯行に使われる油の領収書に、本名をサインするはずがないだろう」
ルーカスは相変わらず冷静に告げる。そしてそのまま、淡々と話を続けるのだった。
その様子はいつもの乱暴者でうるさいルーカスとは全然違う。落ち着いていて理性的で、だが怒りを必死に抑えているようにも思える。
そんなルーカスから、目が離せない。そして私の胸はドキドキと早鐘を打つのだった。
「俺はマルコスから事実を聞いた後、必死に証拠を探し回りました。あなたが関わったであろう人物を片っ端から尋ね、時には大金を渡したり自白薬を飲ませたりもしました。
それで長い年月をかけて、あなたの行動の足取りをようやく掴んだ。
ブロワ伯爵。あなたが伯爵の地位欲しさに、無実のロレンソ元伯爵を陥れ、その伯爵の地位を手に入れた」
ルーカスは、私たち一家が皆諦めていたことを、必死にしてくれたのだ。ただ一人で何年もかけ、誰が何のためにお父様を陥れたのかを探してくれたのだ。
ルーカスだって、仕事で忙しかったに違いない。その多忙の中、私たち一家のことを一番に考え、何もないところからここまでの証拠を集めてくれた。
ルーカスを思うと胸が痛くなった。ルーカスはこんなにも私のことを考えてくれていて、必死に動いてくれていた。それなのに、私は身分が合わないだとか、他の令嬢が合うだとか、逃げることばかり考えていた。